食育のチカラ

東京農工大学農学研究院(環境教育・社会教育)
教授 朝岡 幸彦

vol.18

新型コロナのもとでの学校給食②

文科省が示す「学校の新しい生活様式」における防疫の考え方

新型コロナをめぐる文科省の初動対応
 新型コロナの感染状況に合わせて、文科省から多くの通知・依頼・事務連絡等の文書が出されています。新型コロナの感染対策としてもっとも早い時期に出された文書は、「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について(依頼)」(2020年1月24日/文科省総合局教育改革・国際課他)です。ここでは、中国武漢市を含む湖北省全域が渡航注意勧告に指定されたことを受けて、「現時点では本疾患は、持続的なヒトからヒトへの感染の明らかな証拠はありません。風邪やインフルエンザへの対策と同様に、咳エチケットや手洗い等,通常の感染対策を行うことが重要です」(下線は引用者)と述べています。その後、新型コロナが「指定感染症」に指定されたことを受けて、「新型コロナウイルス感染症の『指定感染症』への指定を受けた学校保健安全法上の対応について」(1月28日/文科省総合局生涯学習推進課、初中局健康教育・食育課、高等局高等教育企画課)が出され、「校長は、当該感染症にかかった児童生徒等があるときは,治癒するまで出席を停止させることができます」と通知しました。これを受けて、「中国から帰国した児童生徒等への対応に関する学齢簿の取扱いについて」(2月10日/文科省初中局初等中等教育企画課教育制度改革室)が出されています。
 中国からの帰国者(児童・生徒)の感染対応から国内での感染対策にシフトしたものが、「児童生徒等に新型コロナウイルス感染症が発生した場合の対応について」(2月18日/厚労省健康局結核感染症課、文科省初中局健康教育・食育課)、「児童生徒等に新型コロナウイルス感染症が発生した場合の対応について」(2月18日/文科省総合局生涯学習推進課)でした。この2つの文書は宛先が異なるものの、ほぼ同じ内容のものであり、【発生情報の学校等への連絡について】「新型コロナウイルス感染症に罹患した児童生徒等について、…本人又は保護者の同意を得て、届け出を受けた内容について、学校の設置者及び学校と情報を共有する」、【出席停止の措置及び臨時休業の判断について】「校長は、当該児童生徒等に対して、治癒するまでの間、…学校保健安全法(昭和33年4月10日法律第56号)第19条の出席停止の措置を取る。また、…感染経路の特定や濃厚接触者の特定等に協力する」「都道府県等は、…必要であると判断した場合、学校の設置者に対し、学校の全部または一部の臨時休業を要請する」、【地域住民や保護者への情報提供等】「都道府県等は、…学校を通じ、保護者等に対しても、同様に情報を提供する」とされました。
 併せて、「国内において新型コロナウイルスに感染した事例が相次いで報告されている中,今後は,国内での感染をできる限り抑えることが重要となってきています」との理由から、感染症対策のポイントを知らせる目的で「学校における新型コロナウイルスに関連した感染症対策について」(2月18日/文科省初中局健康教育・食育課)が出されました。「1.基本的な感染症対策の徹底 手洗いや咳エチケットなどの基本的な感染症対策を徹底するよう指導してください。」「2.日常の健康管理や発熱等の風邪の症状がみられる場合の対応 免疫力を高めるため,十分な睡眠,適度な運動やバランスのとれた食事を心がけるよう指導してください。また,…児童生徒等に発熱等の風邪の症状が見られるときは,無理をせずに自宅で休養するよう指導するとともに,教職員についても同様の対応を促してください」「3.適切な環境の保持 適切な環境の保持のため,教室等のこまめな換気を心がけるとともに,空調や衣服による温度調節を含めて温度,湿度の管理に努めるよう適切な措置を講じてください」「4.卒業式などの学校行事等における感染症対策 卒業式などの学校行事や入学試験など,大勢の人が長時間同じ空間にいる場合には,こまめな換気を実施するとともに,会場の入り口にアルコール消毒液を設置するなど,可能な範囲での対応を検討してください」と指示されています。この時点での「学校保健安全法第19条による出席停止」とする目安は、①「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならない場合も同様)」、②「強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合」、③「医療機関において新型コロナウイルスに感染していると診断された場合」でした。
「学校において予防すべき感染症の解説」における感染症対応
 文科省の通知等にある「通常の感染対策」をまとめているものが、『学校において予防すべき感染症の解説<平成30(2018)年3月発行>』(公財・日本学校保健会)です。これは、それまで学校における感染症対策のマニュアルとして使われてきた『学校において予防すべき伝染病の解説』(1999年、文部省)、『学校において予防すべき感染症の解説』(2013年、文科省)を改定する形で発行されています。
 この解説は、「I. 関係法令の改正等について」「Ⅱ. 学校における感染症への対応」「Ⅲ. 感染症各論」「Ⅳ. 学校において予防すべき感染症のQ&A」「Ⅴ. 関係法令」で構成され、「学校において予防すべき感染症の考え方」で取り上げられる感染症の中に、まだ新型コロナは加えられていない。ただし、SARSコロナウイルスとして「重症急性呼吸器症候群」「中東呼吸器症候群」が「第一種の感染症」に区分され、「感染症法の一類感染症と結核を除く二類感染症を規定している。出席停止期間の基準は、『治癒するまで』である」と説明されています。このほかに第一種感染症には、エボラ出血熱、クリミヤ・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルク病、ラッサ熱、急性灰白髄炎(ポリオ)、ジフタリア、特定鳥インフルエンザ(感染症法第6条第3項第6号に規定する特定鳥インフルエンザをいう)、が指定されている。感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)における「二類感染症」には、「 対人:入院(都道府県知事が必要と認めるとき)等」「対物:消毒等の措置」等の措置が実施できるとされています(2019年3月現在)。
 また、第二種感染症は「空気感染または飛沫感染するもので、児童生徒等のり患がおおく、学校において流行を広げる可能性が高い感染症」とされ、(一般の)インフルエンザ、百日咳、麻しん、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、風しん、水痘(みずぼうそう)、咽頭結膜熱、結核、髄膜炎菌性髄膜炎、が指定されています。第三種感染症は「学校教育活動を通じ、学校において流行を広げる可能性がある感染症」とされ、コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス、流行性角膜炎、急性出血性結膜炎、が指定されている。ここで注目されるのが、「学校で通常見られないような重大な流行が起こった場合には、その感染拡大を防ぐために、必要があるときに限り、校長が学校医の意見を聞き、第三種の感染症の『その他の感染症』として緊急的に措置をとることができる」と説明されていることです。つまり、新型コロナはSARSコロナウイルスであることから第一種感染症に区分されるものでありながら、その特性が明らかになるまでは「その他の感染症」として扱われたと思われます。  「学校における感染症への対応」は、1)学校において予防すべき感染症の考え方(第一種、第二種、第三種感染症)、2)出席停止と臨時休業、3)学校における定期・臨時の児童生徒等の健康診断と感染症、4)就学時の健康診断と感染症、5)海外への渡航や海外からの児童生徒等の受け入れなど、6)学校における感染症への対応に係る体制、に整理されています。とりわけ感染症の予防・拡大防止の手段として、学校保健安全法に具体的に規定されているものが「出席停止と臨時休業」である。学校保健安全法には「第十九条 校長は、感染症にかかっており、かかっている疑いがあり、又はかかるおそれのある児童生徒等があるときは、政令で定めるところにより、出席を停止させることができる」「第二十条 学校の設置者は、感染症の予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部又は一部の休業を行うことができる」と規定されており、学校保健安全法施行令には「出席停止の指示」(第6条)「出席停止の報告」(第7条)が、学校保健安全法施行規則には「臨時の健康診断」(第10条/1 感染症又は食中毒の発生したとき、4 結核、寄生虫病その他の疾病の有無について検査を行う必要のあるとき)「感染症の種類」(第18条)「出席停止の期間の基準」(第19条/1 第一種の感染症にかかった者については、治癒するまで)「出席停止の報告事項」(第20条)「感染症の予防に関する細目」(第21条)が示されています。また、新型コロナ初動期に問題となった海外(ここでは中国武漢市・湖北省等)からの帰国児童・生徒への具体的な対応が示されているのが、「海外からの児童生徒等の受け入れ」の項目ですが、結核の高まん延国で6ヶ月以上の居住歴のある児童生徒等に関する解説に留まるため、今回の新型コロナのような事態に機敏に対応できるものとはなっていません。  このように、新型コロナは「想定外」とは言えないものの、学校における「通常の感染対策」だけでは適切に対応しきれないものでした。こうした学校現場における試行錯誤の中で、校長や学校設置者の「出席停止や臨時休業」に関する判断や権限を尊重して対応するという流れに、変更を求めたものが安倍首相(当時)の学校一斉休校の「要請」です。
「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」の特徴
 学校における「通常の感染対策」を規定した『学校において予防すべき感染症の解説』(以下、解説)の限界を乗り越えようとしたものが、2020年5月22日に公表された『学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル〜「学校の新しい生活様式」〜』(文科省初中局健康教育・食育課)です(図表「新しい生活様式」を踏まえた学校の行動基準)。
 文科省は初動期(第一期 潜伏期)の模索を経て、「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」(2月25日/新型コロナウイルス感染症対策本部決定)を受けて、主に「児童生徒等に新型コロナウイルスが発生した場合の対応について」(2月18日/文科省初中局健康教育・食育課)、「新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における一斉臨時休業に関するQ&A」(3月4日/文科省初中局健康教育・食育課)、「新型コロナウイルス感染症に対応した学校再開ガイドライン」(3月24日/文科省)、「新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における教育活動の再開等に関するQ&A」(3月26日/文科省)、「新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における教育活動の実施等に関するQ&A」(5月21日/文科省初中局健康教育・食育課)などの改訂によって、学校現場に新型コロナ感染対策を指示してきました。こうした通知等をまとめたものが、このマニュアルであり、その後、5回(6月16日、8月6日、9月3日、12月3日、2021年4月28日)の改訂が行われています。
 このマニュアルにおける「出席停止」に関する判断の特徴の一つは、「児童生徒等の感染が判明した場合又は児童生徒等が感染者の濃厚接触者に特定された場合」に加えて、「発熱等の風邪の症状がある場合には、児童生徒等も教職員も、自宅で休養することを徹底します(レベル3及びレベル2の地域では、同居の家族に風邪症状が見られる場合も登校させないようにしてください)」としていることです。学校保健安全法施行令第6条で「校長は、法第十九条の規定により出席を停止させようとするときは、その理由及び期間を明らかにして、幼児、児童又は生徒にあってはその保護者に、高等学校の生徒又は学生にあっては当該生徒又は学生にこれを指示しなければならない」とされており、「発熱等の風邪の症状(及び同居の家族に風邪症状が見られる)」という理由で児童生徒を出席停止として良いのかという問題があります。PCR検査等によって「陽性」と診断される前に新型コロナに感染しているとの「疑い」に基づいて、出席停止を命ずることが予防措置としてどこまで認められるのか問題となるでしょう。
 他方で、「臨時休業」の判断について、①設置者は保健所に臨時休業の実施の必要性について相談すること、②校長は感染した児童生徒等に出席停止の措置をとること、③保健所の調査によって濃厚接触者と判定された者の出席停止の措置をとること、④これらにとどまらず学校の全部または一部の臨時休業を行う必要があるかどうかについて、設置者が保健所の調査や学校医の助言等を踏まえて検討し判断すること、と多くの前提条件を求めています。これは、マニュアル(2020.9.3 Ver.4)で「感染者が判明した時点で直ちに臨時休業を行う対応」を示していた方針を変更したものであり、①感染が拡大しやすい場面がわかってきた、②(学校以外の)他の社会経済活動では感染者の発生により直ちに閉鎖や活動停止まで行わない、③10代以下の罹患率が低い、④感染者が発生しても臨時休業を全く行わなくても感染が広がらなかった事例が大部分である、などの理由をあげています。実際に、学校現場における運用状況は「感染者が発生した学校1996校のうち、臨時休業を実施しなかった学校が55%(1106校)、学校全体の臨時休業を行なった学校が26%(517校)、特定の学年・学級の臨時休業を行なった学校が15%(297校)となっています」(8/11〜11/25に文科省に報告があった学校数)と紹介しています。
 最新のVer.6(4月28日版)の改訂の主な特徴は、変異株(N501Y及びE484K)に関する記述がつけ加わえられていることです。厚労省及び日本小児科学会、専門家アドバイザリーボードの資料や発言をもとに子どもが感染しやすかったり、重症化しやすいなどの証拠はないとしていますが、「従来株と比較すると、変異株の子供への感染力は強い可能性があるため、…児童生徒等への影響については引き続き注視していく必要があります」と述べています。2020年6月1日から2021年4月15日までの児童生徒の感染状況について、小学生が6,183人(有症状者率35%)、中学生が4,072人(52%)、高校生が7,046人(63%)と報告されており、「学校内感染」がそれぞれ5%、7%、24%であることから学校が感染の中心となっていないとします。こうした分析を受けて、「地域一斉の臨時休業については、児童生徒の学びの保証や心身への影響、学齢期の子供がいる医療従事者等の負担等の観点を考慮し、慎重に検討する必要があります」と追記しました。
朝岡幸彦(あさおか ゆきひこ/東京農工大学)