白玉団子つくれますか?

東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科 管理栄養士専攻 4年  干川 明徳


アドバイザー:東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科 保健栄養学研究室 日田 安寿美


皆さんは「白玉団子」をつくれますか?
きっとこれを読んでいるような皆さんは簡単につくることができるでしょう。私も小学6年生のとき、家庭科の教科書の「耳たぶくらいの柔らかさになるくらいまで水を加える」という記述を参考にして、友人と耳たぶを触りながらつくった覚えがあります。それから白玉団子は私の得意料理(?)となりました。

最近、東京のとある小学校で料理クラブの手伝いをさせていただきましたが、その日のお題は白玉団子でした。基本的には、献立を配り児童達は自由に準備をしてつくり始め、先生は少しアドバイスをするだけという方針でした。しかし、何も考えずに水を加えてしまい団子にならなかったり、お湯の準備や茹でた団子を入れる水を準備していなかったりと、軽くアドバイスをするだけのつもりが、ほとんどすべての指示を出さなければいけませんでした。

このクラブ活動をしているとき、担当していた先生が「家で手伝いをしている子は手際がいいんですよ。」と言っていたことを良く覚えています。私の目から見たら手際がいい子はいるかどうか判断しづらかったのですが、1つだけ分かったことは「この場に献立を見ただけで料理をつくれる児童はいない」ということでした(ちなみにこの料理クラブのメンバーは4~6年生の女子児童のみでした)。この料理クラブには、日常的に食事をつくる手伝いをしている児童はいないのではないでしょうか。私は、小学校の料理クラブは料理好きの児童が集まるもので、白玉団子くらいは簡単につくれるものだと思っていたため、衝撃的な出来事でした。この体験から感じたことは、家庭科の授業を受けるだけでは食事をつくれるようにはならないだろうということであり、食事に関しての知識・技術は私が死ぬ前に次世代の子どもたちへ伝えたいという思いが湧いてきました。

日本栄養・食糧学会の第13回脂質栄養シンポジウムに参加したときに、「弁当の日」(子供だけで弁当を作る活動)を始めた香川県滝宮小学校の元校長先生である竹下和男先生のお話を聞くことが出来ました。「弁当の日」の取り組みについてのお話は、感動あり笑いあり、そしてなにより弁当の日を実践したいと感じさせる内容でしたが、私は話の導入部分だった、ある家族のお話にとても感動させられました。講演の始めは「お弁当を作ろう」というお話なのだろうと私は思いながら聞いていると、余命幾ばくもないさくらさんという女性と5歳の娘さんの話でした。乳がんで残された命があとわずかだと自覚したさくらさんは、心残りがないようにと残される5歳の娘に何が残せるかを考えました。洗濯干し、洗濯たたみ、風呂洗い、掃除や保育園の準備などの家事を全て自分で出来るように教え、最後に料理を教えたのです。ご飯の炊き方や味噌汁の作り方を(もちろん出汁をとり、具も自ら包丁を握って切らせることも)教えて、さくらさんは2008年夏にこの世を去りました。そしてその後、娘さんはお父さんのためにお母さんから教わったようにご飯を炊き、味噌汁をつくってくれました。

おそらく、児童達には今、食事をつくってくれる人がいるでしょう。しかし、今まで食事をつくってくれていた人が急にいなくなってしまったら、残された料理のできない人たちはどうすればいいのでしょう?ついつい分かっていながらも、危ない、自分でしたほうが早い、教えるのが面倒など、お子さんに食事作りを手伝わせない理由をつけてはいないでしょうか。お子さんがいる方は、ご自分のお子さんが1人残された時を想像してみてください。・・・・・・自分で食材を調達し、料理して食べていく力はついていますか?そのようなときが来た時のためにも、子どもが自らの力で生きていけるよう、各家庭で日常的なお手伝いの中で学び身につけていくことが大切なのではないかと思います。


白玉だんごきなこ画像白玉だんごあんこ画像

さて、数々の困難を乗り越えて白玉団子が完成しました。そして、普段は給食をほとんど食べられない児童やとても無口で笑顔をあまり見たことがない児童など、様々な児童がいましたが、共に1つのテーブルで楽しそうにおしゃべりをしながら白玉団子を食べていました。あっと言う間に完食です。この体験を通じて思うことは多々ありましたが、このときの児童の笑顔を見ただけでその日1日の疲れがどこかへ消えて、なぜか私も楽しい気持ちになりました。もう、この児童達は自分でつくった料理を食べる楽しさを知っています。次は自分達がつくった料理を他の人に食べてもらう喜びを知る番になるでしょう。