私にとっての食育

東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科  砂見  綾香


アドバイザー:東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科 保健栄養学研究室 日田 安寿美


11月の始めに、とある小学校の料理教室にて、私はさつまいものお話をさせていただきました。その小学校には学習ボランティアとして通っていたため児童たちとは親しかったのですが、1人で大勢の前に立って話をすることは、予想以上に緊張しました。当日集まったのは、4年生〜6年生まで総勢30人以上。みんな、私の話を聞いてくれるかな?と不安を抱きつつ、料理教室は始まりました。


鰹節けずりの画像始めに、当日のメイン「さつまいもの茶巾絞り」について簡単にお話をしました。「茶巾絞りって、どんなお菓子か知っていますか?」と聞くと、ほとんどが知らない様子。そういう私も、茶巾絞りを作るのはおそらく小学生以来でした。ケーキなどの洋菓子に比べ、和菓子を家庭で作る機会は少ないのかもしれません。茶巾絞りとは、どんなふうに作るのか、どんな形をしているのか、茶巾とはどういうものなのか、写真で示しながら話しました。ここまでほんの5分足らずでしたが、児童の様子をうかがうと、しっかりと話に集中してくれているようでした。


次に、「さつまいもについてもっと知ろう!」ということで、ちょっとしたクイズと実験を行いました。

「さつまいもは、どんな形をしていますか?」
「さつまいもの葉っぱは、どんな形をしていますか?」

こう聞くと児童たちは、一斉に手で形をつくったりして答えてくれます。わいわい、がやがや、なんとなく盛りあがってきました。

「では、さつまいもの花は、どんな形をしていますか?」

ここで少し、児童の様子に戸惑いが見えました。読者の皆さんは、さつまいもの花がどんな形をしているかご存知でしょうか?実は、さつまいもは鈍感な短日性のため九州や沖縄でしか花をつけず、本州ではさつまいもの花はめったに見ることができません。その花はヒルガオやアサガオのようなラッパ型をした小ぶりのもので、花びらは周りが白色、中心はきれいな赤紫色をしています。 本州ではめったに花をつけないさつまいもですが、偶然にもこの小学校に植えているさつまいもには花が咲きました。会場の画像全校朝礼にて校長先生のお話があり、廊下にも写真を貼っていたようですが、なじみが薄いのか、興味がないのか、児童たちは忘れてしまっていたようでした。他の植物の写真を混ぜて4択にすると記憶がよみがえってきたのか、ほとんどの児童が正解していました。さつまいもの花と一緒に、選択肢として使用したじゃがいもやなすの花も紹介しました。


会場の画像次に、さつまいもの食べ比べ実験をしました。調理法によって甘味が違うことを体験できればと思い、蒸し器加熱と電子レンジ加熱をとりあげました。さつまいもは蒸し器で加熱する方が、電子レンジで加熱するよりも甘くなると言われています。これには、さつまいもに含まれる酵素と加熱温度が関係しています。さつまいもに含まれるアミラーゼという酵素は、でんぷんを分解してブドウ糖にする力を持っています。でんぷんでは甘さを感じませんが、ブドウ糖になると甘いと感じるようになります。しかしこのアミラーゼという酵素は、65℃以上になるとでんぷんを分解する働きが弱くなってしまいます。そのため、急激に温度が上がる電子レンジより、ゆっくりと熱の入る蒸し器の方が甘くなるというわけです。石焼き芋が甘いのも、低温でじっくりと加熱しているのが理由です。


さて、当日の気になる食べ比べの結果はというと、蒸し器での加熱時間が足りなかったせいか、蒸し器よりも電子レンジの方が甘いという結果になってしまいました。事前に撮影していた断面写真でなんとか場を収めましたが、児童たちの少しがっかりした様子に申し訳なく思いました。


会場の画像そして、いよいよ調理実習の開始です。調理自体は簡単なものだったのですが、さつまいもの皮をむくのは大変だったように感じます。ピーラーを使うにもある程度の力が必要で、とても時間がかかりました。皮むきを終えたら、輪切りにして鍋で煮ます。その間児童たちは、他の班の様子を見に行ったり、煮ているさつまいもを観察したり、とても楽しそうでした。そうして軟らかく煮えたさつまいもは、つぶして餡状にし、きれいにラップで形作ります。ラップで包む作業では始め不安げにしていた児童たちでしたが、1つまた1つと包んでいくと作業にも慣れ、きれいに絞り模様をつけて完成させることができました。試食ではみんな「おいしいね」と笑顔で完食し、無事に料理教室を終えることができました。


私の目指す食育とは、食べることに限らず「食」という大きなフィールドに興味を持たせ、「食」を大切に扱ってもらうことです。欲をいえば、「おいしそうだね」「きれいだね」「たのしいね」「たいへんそうだね」「おもしろいね」…などなど、日々の食生活を「当たり前のもの」と感じるのではなく、様々な変化を感じて食を楽しむ感性を育てたいと考えています。食育で何を教えるべきなのか悩んできた私にとって、これが現在の答えです。これから5年、10年と経つにつれて、その考えは変わっていくかもしれませんし、変える必要があるかもしれません。これが食育だ!というはっきりした答えはないのかもしれませんが、人々を根底から支える食についてこれからも考えていきたいと思います。