食事バランスガイドを使った中学生への栄養教諭実習から食育を考える

東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科  関 奈央弥


アドバイザー:東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科 保健栄養学研究室 日田 安寿美


私は6月に、栄養教諭の教育実習のため、母校である京都府京丹後市立の中学校を訪ねました。この中学校は生徒数389名、教諭34人で、給食はセンター方式でした。給食センターは1つの幼稚園と6つの小学校、2つの中学校の合計1,521人分の給食を作っていました。このセンターには栄養教諭の方がいらっしゃいましたが、各小中学校にはまだ配属されていないという状況でした。実習校では常勤の栄養教諭がまだ配属されておらず、今までに栄養教諭の実習を受け入れたことがないという状況でした。栄養教諭実習は各教科の教育実習とは少し異なって1週間と短く、今回実習を受け入れてもらえたことは本当にありがたいことでした。
1週間という短い実習期間中に授業案を作ることは難しかったため、実習先の先生にご協力をいただき、電話で事前打ち合わせや、メールで指導案のやりとりをしながら授業案を事前に準備し、実習に臨みました。家庭科の先生にご指導いただくことになり、2年生の授業がちょうど食べ物に関する内容を扱っている時期だったので、その中で授業と関連をもたせて、食に関する指導を行うこととなりました。私は、栄養教諭としての専門性を生かした授業がしたいと考え、生徒に食事バランスガイドに関する知識を身につけてもらいたいと考えました。なぜここで食事バランスガイドを選んだかというと、短期間で日常生活に生かせることを学んで欲しいという思いがあったためでした。以下に授業の内容についてご紹介したいと思います。

食事バランスガイド

出展:農林水産省のホームページより


1日に何をどれだけ食べたら良いかな。


私に与えられた授業の時間は各クラス2時間(50分2コマ)ずつでした。そのため、2時間で食事バランスガイドの導入から活用までを教えるためのスケジュールについて、最初の1コマで食事バランスガイドについての説明を行い生徒に食事バランスガイドについてしっかり理解してもらい、次の1コマで食事バランスガイドの活用方法を実習形式で学んでもらおうと考えました。実習部分は生徒を飽きさせることなく、積極的に実践しながら覚えてもらうことをねらいました。食事バランスガイドについての説明を行うに当たり、料理写真のカードを大学から借りて活用しました。この教材のおかげで、生徒の視覚に訴えて指導をすることができ、理解しやすい授業になったのではないかと思います。
バランスガイドの活用の実習では、1班5~6人になってもらい、こちらであらかじめ用意したメニュー表を配布し、一日の食事の組み合わせをそのメニューの中から選んでもらいました。メニュー表には料理名の他に、それぞれのメニューの「つ(またはサービング数SV)」の数字を載せて、食事バランスガイドを活用し、自分たちにふさわしい量の「つ(SV)」数が摂れるように一日の食事を考えるというルールをつけました。そして、最後に、班ごとに考えたメニューを発表してもらいました。

適正エネルギー量にあわせて料理を組み合わせよう!

出展:農林水産省のホームページより


適正エネルギー量にあわせて料理を組み合わせよう!


実際に授業をやってみてまず少し驚いたのは、クラスの約半分という想像していたより多くの生徒が、食事バランスガイドを「どこかで見たことがある」と答えたことでした。しかし、活用の仕方、図の見方を知っている生徒は一人もいませんでした。バランスガイドについての説明を行う中で最も難しいと感じたのは、抽象的な思考がまだ難しい生徒もいる中で、「つ(SV)」の概念を教えることでした。「たんぱく質40g程度で主食の1つ分ですよ」と言って教えたところで、たんぱく質40gがどの程度のものなのか、間違いなく伝わらないと思います。そこで、私はさまざまなメニューの実物大の写真を用いて、視覚的に覚えてもらおうと考えました。そして、その写真のメニューが主食、主菜、副菜といった料理区分のどれに入り、それがいくつ分(SV)に相当するかを指導しました。写真を生徒に提示することで、生徒たちも興味を持って授業を聞いてくれていました。一日の食事を班別で考える実習では、ワークシートを班で完成させるようにしました。白地図のような食事バランスガイドのコマの絵を配布して、メニュー表に書いてある「つ(SV)」の数を見て、料理区分ごとに色を塗っていきながら、自分たちにふさわしい量の「つ(SV)」を摂れるよう一日の食事を構成してもらうことを意図した実習にしました。生徒のやる気を出すために、一番いい食事例を考えた班には賞状を用意しました。この実習で難しいと感じた点は、生徒たちの中に、コマはしっかり埋まっているけれども、料理の組み合わせを考えず、パンとご飯を組み合わせたり、そばとラーメンを組み合わせたり、同じ料理を何回も使ったりしている班があったことです。最初の段階で料理の組み合わせについての注意点もしっかり指導しておく必要があったなと感じました。また、各生徒の家庭での食習慣の違いなどにより、朝食はパンかご飯かでもめた班もありました。実習全体としては、どの生徒も楽しそうに取り組んでいました。授業の最後に各班で考えた一日の食事を発表するという実習も行いました。この時に一番いいメニューを考えた班に賞状を授与する予定でしたが、どの班もしっかりとした食事例を考えていたため、一番を決めることができず、結局全ての班に賞状を贈ることにしました。

ばら寿司の画像 かに料理の画像

京丹後市は京都府の北部に位置し、日本海が近く、郷土の味としては「ばらずし」や「松葉ガニ」、「へしこ」などが有名です。郷土の食文化も、是非伝えていきたいと思います。

(写真の出展:京丹後市観光協会のご好意により転載)http://kyotango.co.jp/


少ない回数ではありましたが、実際に生徒たちを前に食育を行ってみてまず印象に残ったことは、生徒たちが楽しそうに授業を聞いてくれていたことです。自分たちの実生活に身近な題材を取り上げることで、生徒たちも興味を持って授業を聞いてくれたのではないかと思います。授業の最後に生徒たちに感想を書いてもらいましたが、「実習が楽しかった。実習が印象に残った。」という意見が多くみられました。実習を通して実際の食の場面や、料理の組み合わせをみんなで話し合いながら学べるような授業を実施することで、生徒たちの記憶に残していけるようになることを実感しました。今後は、楽しいというだけでなく普段聞けないような話、例えば栄養素の話や食文化の話などについて食に関する専門家の視点から盛り込んでいきたいと思いました。
今回は、2年生の各クラス2コマずつの授業でしたが、生徒たちの授業の感想を見て、計画当初の食事バランスガイドの活用法を身につけるという授業のねらいは達成できたのではないかと思いました。近い将来、私は栄養教諭になることを希望しています。一人でも多くの児童・生徒に食に関する指導を行い、日本のこれからを担う子供たちの成長に貢献していきたいと思います。