30歳代社会人男性に聞きました。
Q.試合に勝つための食事をどう思いますか?
自分がプロのスポーツ選手ならどんな食事も食べます。しかし家族との食事となると話は変わってきます。子供には旬の物、おいしいものを食べてもらいたいです。旬の物は栄養豊富というし、子供には日本の食文化を理解してもらいたいです。
試合前日・当日の食事管理でパフォーマンスが変わるならやってみたいかな。例えば瞬発力がついたり、筋肉がついたりするなら…。
肉を食えば、筋肉がつくと思っていました。だから学生時代はがっつり肉を食っていたけど、今日の講義を聴いて試合に勝つための食事というのは、そういうわけでもないのだと感じたよ。
サッカー選手の三浦和良の食事知っている?油モノは徹底して避け、鶏肉のササミ以外の肉は食べないらしいよ。俺もサッカーを職業にしているならやるけど、社会人サッカー程度じゃ、ちょっと真似できないや。酒を飲んだり、お菓子食べてストレスを発散したいしね。
エネルギーと栄養素を取り入れるだけのスポーツだけを考えた食事など、つまらない。食事に愛情がないと思う。私は学校給食を作っているけど、人のために美味しい物を美味しく提供するように日々心掛けているよ。
Q.今回の栄養教育及び研究をどう思いますか?
サッカーをやっている身としてスポーツ栄養はとても興味深い講義だったよ。
もう少し即効性のある実験などを取り入れてくれたらおもしろいと思うよ。例えば、1週間某メーカーの緑茶を飲み続けたら痩せるのかとかさ。
効果が目に見えないと食事に気をつけるのは難しいな。
マニュアルを教えるのではなくアドバイスをしてほしいな。
以上は、私達が卒業研究の一環で行った栄養教育の際の回答です。私達の卒業研究のテーマは「30歳代男性への食生活改善に向けた栄養教育が体脂肪率減少に及ぼす影響」についてです。『なぜ30歳代男性?』と思うかもしれません。きっかけはビール腹です。私は地元の社会人サッカーチームに在籍しており、チームは20代と30代から成っています。しかし20代と30代では体に決定的な違いがあります。それがビール腹です。20代の選手の引き締まった腹筋とは異なり30代の選手はポコっとお腹が出ています。見た目がだらしなく見えるだけでなく、高血糖、高血圧、脂質異常を起こしやすく、生活習慣病に陥るリスクがあがると言われています。厚生労働省のデータにおいても30歳代から40歳代にかけて肥満者は増加しています。これを何とかしたいと思い卒業研究のテーマにしました。
まず、本研究参加者の肥満状況を把握するために身体測定を行いました。研究同意者11人のうち7人がメタボリックシンドロームの診断基準の一つであるウエスト周囲径85㎝を超えていました。私たちが考えた教育内容は、参加者に低エネルギーの食事のレシピや献立を渡すのではなく、なぜ太るのか?バランスの良い食事とは何か?を示し、参加者が与えられたメニューをこなすだけという受け身のものではなく、食生活を自ら見直してもらうようなスタイルにしました。また社会人には付き物のお酒の飲み方について、関心が高いと思い取りいれました。加えて、サッカーをしているということでスポーツ時の水分補給法や試合前の食事についての説明を行いました。教育内容は以下の3つです。
栄養教育の企画・実施を通して感じたことは「いかに興味を持ってもらうか」ということです。自分のウエストに溜まった脂肪に興味を持ってもらう、バランスのよい食事に興味を持ってもらう、自分の食事に興味を持ってもらう、健康に興味を持ってもらう等、参加者の方々に興味を持っていただかないと栄養教育はつまらない、形だけのものになってしまいかねないからです。教育内容の2)と3)は参加者に身近な内容ですが、1)の内容は「食事バランスガイド」という聞きなれない言葉のため取っ付きにくいのではと考え、参加者の方々が少年時代に読んでいたであろう漫画を話に取り入れて関心を引くような工夫を行いました。
実際に教育を行ってみると参加者は私たちの話に熱心に耳を傾けてくれました。貴重な休日を割いての参加は、私たちの卒論のためにしょうがなく栄養教育に付き合ってくれたという印象は多少なりともありましたが、スポーツ栄養に関しては特に質問・疑問をぶつけてきてくれました。質問も私たちが想像していたよりも高度な内容が目立ち、TV・雑誌等のメディアから得た知識は参加者の方々の方が上なのではないかと感じました。前述の栄養教育の際の回答にあるように、参加者の方が三浦和良の食事について語ってくれて感じたのは、話題の有名人の話など聞きたくなるような例え話を講義に盛り込んだほうがよかったと思いました。
30歳代男性の栄養教育は効果が出にくく難しいとは聞いていましたが、確かにその通りでした。まず、最後まで研究プログラムをこなしていただいた参加者は11人中5人でした。原因に仕事のため参加できない、連絡がつかないなどが挙げられます。参加者5人中、体重や体脂肪に成果が見られたのは2人でした。成果が見られなかった3人にも小さな改善点(間食を控える等)はありました。プログラム期間中、参加者にはどのくらいの頻度で連絡を取ればよいのか悩みました。あまり頻繁に連絡を取っても煙たがれるのではと思い、必要最低限のやりとりしかしなかった事も栄養教育の成果が伸び悩んだ要因だと思います。
栄養教育に絡んだ話題として特定健診・特定保健指導があります。2008年から始まったこの制度で管理栄養士のニーズはますます高まっていくでしょう。その中でいかに興味を持ってもらえる話ができるかが成果のカギを握ります。ただ知識を与えるだけではなく、幅広い話題の分野から対象者にアプローチできる栄養士になりたいと感じました。