私は大学に入るまで農業とあまり関わりがなく、あったとしても家族で市民農園を借りていたくらいでした。ちょうど私が大学に入る前くらいから農業に注目が集まってきていましたが、自分にとって農業とは大げさにいえば未知の世界でした。しかし、栄養科学科に入学して、これから食物を扱うのだから、そのもととなっている農業の現場を少しでも知っておくことは大切なのではないかと思い農業実習を行う部活に入ることにしました。
私の入った部活は土日や大学の長期休みを利用し、農家さんのお家で作業させていただくというのが主な活動で、他には毎年大学の文化祭で農家さんから提供していただいた野菜を売ったり、農業に関連したテーマを設定し、パネルで簡単な発表をしたりしています。
北海道の小豆畑。除草作業をしました。
北海道のカボチャ畑。収穫作業を行いました。
作業は実習地によってさまざまですが内容だけあげると、作物の収穫、箱詰め、袋詰め、除草、肥料まき、牛舎の掃除、加工品をつくるお手伝い等々があり、作業中は農家さんの家の一員として作業させてもらっています。農家さんの生活に直結する仕事を実習させていただいているので、大きなミスがあれば怒られますが、作業以外の時間には、さまざまなお話を聞くことができます。
実習に行って多くの部員がまず感じるのは作業のつらさです。農作業を体験したくて部活に入ったので、作業がつらいとは言いたくありませんが、疲労を感じたのは事実です。北海道の人が小さく見えるような広い畑で、機械で取りきれない細かな雑草を手作業で抜いたり、かぼちゃや里芋など重量があるものの収穫などは体力を消耗します。また、屋久島で生産しているたんかんという柑橘類の農園にも行きましたが、水はけを良くすることで実の糖度を上げる工夫するために急勾配の土地で栽培しています。もともと屋久島自体は隆起してできた島であり、岩がごろごろしているような土地なので、収穫した実や肥料の運搬はとても大変です。(岩が多い事は根からの水分吸収を抑制するため、果実の糖度を上げるためには良い事なのですが・・・。)しかし、作業を終えたときの爽快感は言葉では言い尽くせません。
タンカン畑での収穫。
タンカン。
実習をすることで初めてわかったことは生産者の努力、消費者への思いです。部内で毎年一回は話にでるのがトマトをタオルで拭いてから出荷する事です。ほうれん草も虫くいや枯れた葉は一束一束チェックして取り除きます。たんかんを出荷する際も一見何もないような小さな傷であっても運送している間に傷口から腐っていってしまうので念入りにチェックします。他にも直接消費者の反応を見るために直売所を運営している農家さん、大量生産はできないけれど、少量で美味しい野菜をつくっている農家さん、6次産業を行っている農家さんなど、農家さんにはこだわりがあることがわかりました。そのこだわりは人によって違いますが、よいものを消費者に届けたいという思いは同じだと感じました。
また、現地に来て初めて知ったこともあります。たんかんの実習を行っている屋久島では、本土に運ぶために船を使わなくてはいけないので、運賃の事や海が荒れるとなかなか出荷できない事もあると聞き、東京を出て現地に来なければわからなかったことだと思いました。
作業だけではなく、農家さんが生産している作物の調理法なども教わることができました。実習中は料理も一緒に作って食べることが多いので、例えばじゃがいもにも多くの種類があり、適している料理方法が違う事を聞き、普段作っている美味しい食べ方を教わったり、西日本では醤油が甘かったりみそが違ったりとその土地の食文化に触れることができました。また、鳥獣被害や天候、農業政策などのお話を聞くこともでき、実習を通して社会を垣間見ることができたと思います。
文化祭でのパネル発表の様子。
廊下の装飾の様子。
街に出ればたくさんの飲食店が並び、テレビや本屋では様々なメニューが紹介されています。しかしそれは当たり前の光景ではなく農家さんの努力があるからこそ成り立っている。私はわずかではありますが、それを身をもって経験できたと思います。
今年、私たちは文化祭のパネルの展示で「生産者と消費者をつなぐこと」を軸とし、一般の人が農業を少しでも身近に感じてもらうために、関心を持ってもらいやすい家庭菜園について発表しました。どうしたら農家さんと消費者が近づけるか。そのために自分は何ができるか。これは簡単に答えが出せるテーマではなく、これからも考えていくテーマだと思いました。
将来どんな道に進んだとしても、生活の基礎である食、農業について関心がつきることはないと思います。