食育のチカラ

東京農工大学農学研究院(環境教育・社会教育)
教授 朝岡 幸彦

vol.17

コロナ禍のもとでの学校給食①

 コロナ禍のもとで、みなさんはどうお過ごしでしょうか。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、私たちの生活を大きく変えています。いわゆる「3密」の回避をはじめ、マスク・手洗い・移動の自粛など、ウィズ・コロナと呼ばれる「新しい生活様式」がすっかり私たちの生活に定着したように見えます。しかし、サクラの咲く頃になると、人恋しく、私たちの心がざわつくことも否めません。二度目の緊急事態宣言が解除され、ふたたび感染者数が増加傾向を示すなかで、1年延期された東京オリンピック・パラリンピックへの準備が進みつつあります。専門家によると国民の多くにワクチンが摂取され、集団免疫を獲得するまで(おそらく年末まで)は、このウィズ・コロナの生活を続けなければならないようです。まだまだ苦しい日々は続きますが、ここで新型コロナのパンデミックに私たちがどのように対応してきたのか、集団給食がどのようにこの試練を乗り越えようとしてきたのかをふりかえる必要があるように思います。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をふりかえる
 新型コロナ(COVID-19)に関わる緊急事態宣言を全国で解除するにあたって、安倍首相は記者会見で次のように述べました。

「我が国では、緊急事態を宣言しても、罰則を伴う強制的な外出規制などを実施することはできません。それでも、そうした日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で、今回の流行をほぼ収束させることができました。正に、日本モデルの力を示したと思います。」

 ここでいう新型コロナ第一波に対応した「日本モデル」とは何かを、調査・検証しようとしたのが『新型コロナ対応民間臨時調査会 調査・検証報告書』(アジア・パシフィック・イニシアティブ、2020年10月)です。この「日本モデル」という表現は新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年4月1日)で最初に使われ、5月29日の「状況分析・提言」でそれが一定の成果を上げたと評価して、その成功要因を以下のように整理しています。
     
  • ①中国及び欧州等由来の感染拡大を早期に検出したこと。  
  • ②ダイアモンド・プリンセス号への対応の経験が活かされたこと。  
  • ③国民皆保険による医療へのアクセスが良いこと、公私を問わず医療機関が充実し、地方においても医療レベルが高いこと等により、流行初期の頃から感染者を早く探知できたこと。  
  • ④全国に整備された保健所を中心とした地域の公衆衛生水準が高いこと。  
  • ⑤市民の衛生意識の高さや(欧米等と比較した際の)もともとの生活習慣の違い。  
  • ⑥政府や専門家会議からの行動変容の要請に対する国民の協力の度合いの高さ。  
  • 特筆すべきこととして、⑦効果的なクラスター対策がなされたこと。

 報告書は、日本政府の第一波への対応(日本モデル)とその結果を「泥縄だったけど、結果オーライだった」(官邸スタッフヒヤリング)という言葉で表現しています。たしかに、新型コロナによる人口比死亡率は100万人あたり8人、2020年4-6月期のGDPの落ち込みは前期比マイナス7.9%、失業率2.9%とまずまずの「結果を出した」と評価されます。とはいえ、「関係者の証言を通じて明らかになった『日本モデル』の形成過程は、戦略的に設計された緻密な政策パッケージのそれではなく、様々な制約条件と限られたリソースの中で、持ち場持ち場の政策担当者が必死に知恵を絞った場当たり的な判断の積み重ねであった」との指摘は重要です。
 このように場当たり的な判断の積み重ねでなんとか乗り切ったと評価される新型コロナの第一波と「日本モデル」について、その経過と特徴を確認する必要があるでしょう。新型コロナへの政府の対応を、次の五つの時期に区分して評価することができます(表 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をめぐる政府と教育の動き(日本)第一波 / 水谷哲也・朝岡幸彦編著『学校一斉休校は正しかったのか』筑波書房、2021年より)
【第Ⅰ期(潜伏期)】2020年2月24日まで
 中国・武漢市における原因不明のウイルス性肺炎の発生が発表されたのは、2019年の大晦日(12月31日)でした。日本政府は2020年1月6日に厚労省検疫所ホームページ「FORTH」で「擬似症」という概念を使って注意喚起を図っています。1月15日に武漢市に一時帰国していた日本国内最初の症例(患者)が発見され、1月21日に第1回関係閣僚会議を開催し、中国全土に「感染症危険情報レベル1」(渡航注意)を出しました。
 1月24日には中国湖北省への渡航中止が勧告され、新型コロナを感染法上の指定感染症に指定する政令を公布(1月28日)しました。1月30日にはWHOがPHEIC(緊急事態)を宣言する(2月11日にCOVID-19と命名)とともに、新型コロナウイルス感染症対策本部第1回会合が開かれています。2月3日に横浜港にダイヤモンド・プリンセス号が入港して臨時検疫を開始したことが、新たな展開をもたらしました。2月13日には国内初の死者が出るとともに、政府対策本部が「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」を決定(2月14日に専門家会議を設置)し、新型コロナを検疫法第34条の指定感染症としたことを受けて、2月17日に厚労省は「相談・受診の目安」(風邪症状や37.5度以上の熱が4日以上続く場合)を公表しています。
【第Ⅱ期(拡大期)】2020年3月12日まで
 2月25日に政府対策本部は「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を決定しました。「学校等における感染対策の方針の提示及び学校等の臨時休業等の適切な実施に関して都道府県等から設置者等に要請する」とされ、今後の進め方について「地方自治体が厚生労働省と相談しつつ判断するものとし、地域の実情に応じた最適な対策を講ずる。なお、対策の推進に当たっては、地方自治体等の関係者の意見をよく伺いながら進めることとする」と述べています。
 しかしながら、安倍首相は全国的なスポーツ・文化イベント等の2週間の中止、延期または規模縮小等の要請をした(2月26日)ことに加えて、全国すべての小中高校と特別支援学校に対して3月2日から春休みに入るまでの臨時休校を要請しました(2月27日)。この要請を受けて、3月4日時点で全国の公立小学校の98.8%、中学校の99.0%、高等学校の99.0%、特別支援学校の94.8%が「臨時休業」を実施したのです。
 また、3月9日には専門家会議が「新型コロナウイルス感染症対策の見解」を発表して、いわゆる「三密」(①換気の悪い密閉空間、②多くの人の密集場所、③近距離での会話や発声をする密接場面)の回避を呼びかけています。
【第Ⅲ期(規制強化期①)】2020年5月13日まで
 政府は、社会的な緊張の高まりを受けて「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の一部を改正しました(3月13日公布)。3月26日には特措法第一五条に基づく政府対策本部が設置され、28日に「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」が決定されます。
 3月中旬頃に「自粛疲れ」と呼ばれる緩みが生じる中で、吉村大阪府知事の兵庫−大阪間の往来自粛要請(3月19日)や小池東京都知事の「ロックダウン」発言(3月23日)、日本医師会の「医療危機的状況宣言」(4月1日)などの社会的な危機感の高まりを受けて、4月7日に7都府県(埼玉、千葉、東京、神奈川、大阪、兵庫、福岡)を対象に緊急事態宣言が発出され、4月16日には全国に対象区域が拡大されました。宣言と同時に改定された基本的対処方針では「最低7割、極力8割程度」の接触機会の削減を目指すことが明記され、各都道府県知事と国との役割が曖昧さを残しながらも書き分けられています。その後、緊急経済対策や補正予算の成立を経て、専門家会議から「新しい生活様式」が公表されました(5月4日)。
【第Ⅳ期(規制緩和期)】2021年1月6日まで
 政府が39県の緊急事態宣言を解除(5月14日)して以降、全国での解除(5月25日)を経て、次第に感染者数が増加する中でイベント開催制限の緩和(7月10日)、GoToキャンペーンの開始(7月22日)など規制の緩和へと向かう状況がつくりだされます。
 新型コロナの感染者数から6月下旬には第二波に入ったと考えられますが、政府の政策対応に大きな変化がないことから7月末までを【第Ⅳ期A(規制緩和期①)】、8月以降を【第Ⅳ期B(規制緩和期②)】と区分できます。さらに秋から冬にかけての感染者の急増(第三波)の到来を受けて、2度目の緊急事態宣言を1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)に発令(1月13日に7府県を追加)した1月7日以降を【第Ⅴ期(規制強化期②)】と区分することができます。

やや長くなりましたのでここで一区切りして、次回は「学校給食に関する政府(文科省等)の対応とその影響」について分析します。
朝岡幸彦(あさおか ゆきひこ / 白梅学園大学特任教授/元東京農工大学教授)