大学生の食育レポート
Vol.34 オーストラリアに行ってきました
東京農業大学応用生物科学部栄養科学科 石川 威弘
こんにちは。僕は大学を一時休学し、オーストラリアに1年間滞在してきました。今回は僕がそこで感じたことを「食」に焦点を当ててみようと思います。
オーストラリア料理って?
まず、はじめにオーストラリアの食文化について少し触れていこうと思います。昔オーストラリアはイギリスの植民地でした。そのためイギリスの影響が強く、オーストラリア独自の食文化はほとんど残っていません。その上、イギリスの食といえば、おいしくないことで有名ですが、実際、おいしいものが少なかったです。おいしいものを挙げるとすればフィッシュアンドチップス、ミートパイくらいのもの。 フィッシュアンドチップスとは昔からあるイギリスのファーストフードで、大きな白身魚のフライにポテトフライを添えたものです。
お店によって、イカリングやホタテなどがついていたり、フライの魚が選べたりします。基本は塩味なのですが、ビネガーをかけてくれるお店もあり、このビネガーが絶妙にマッチします。オーストラリア人(オージー)の友達に「オーストラリアで伝統的なおいしいものは?」と尋ねたところ、「全然ないよ!フィッシュアンドチップスとミートパイ、あとティムタム(チョコのお菓子)くらいかな。(笑)」。滞在期間では、あまり家庭料理というものには出会いませんでした。
みんな大好きBBQ
そんなオーストラリアでも一つ誇れるものがあります。それがバーベキュー文化。オーストラリアではいたるところにバーベキュー用の電気式の鉄板があります。海沿いの公園なら必ず一つはあります。そこで休日は海に入ってバーベキューとビールいうのがオージーの休日の過ごし方。
特にクリスマスや建国記念日などの特別な祝日は酒屋やスーパーも閉まってしまいます。おそらく休日はみんな働きたくないのでしょう。日本では考えられないですね。
そういった祝日は家族みんなでバーベキューをしている姿をよく見ました。現在の日本では家族が別々の食事をとったり、子供が一人でご飯を食べたりしている現実があります。しかし、このバーベキュー文化は家族みんなで食事をとる機会を作っていました。さらに子どもたちは食材を見たり、準備を手伝ったりする機会にもなり、家族が食事を通してコミュニケーションを取っていて、食育としてもよい場なのではないかと思いました。
食料自給率100%を超える国
オーストラリアは食料自給率187%(平成21年)。日本もかなりお世話になっています。オージービーフは日本には欠かせないでしょう。食料自給率が高い国のスーパーを歩くと驚きの連続。リンゴが1㎏$3(日本円で約240円)。トマトが1㎏$2(約180円)ベーコンが1㎏$5(約450円)。牛ミンチ肉500g$3(約240円)などなど。とにかく食材が安いです。家で料理をする人にとってこんなにうれしいことはないでしょう。
ジャパニーズレストランで働いて
3ヶ月ほど回転寿司チェーン店で働いたことがありました。オーストラリアでもSUSHIは大人気です。しかし、レーンの上を回っているものの8割は揚げ物を使ったSUSHIです。生の魚はマグロとサーモンが少しだけ回っているだけです。一番人気の商品はチキンカツとアボカドをのせ照り焼きソースをかけ最後に天かすをのせた握り、その名も“Chicken avocado”です。(左の写真)
オーストラリアには日本の寿司が変化したSUSHIという新しい食文化が出来上がっていました。 また初対面の人に私は日本人だと言うと、「SUSHIすきでしょ?」みたいなことを多くの人から言われました。確かに寿司は好きですが、みんながみんな同じことを聞いてくるのですごいステレオタイプだと感じました。あと、「君たちが思っているSUSHIは別に好きじゃないからね」とも思いました。
海外の人にとっての日本食のイメージが僕らの考える日本食のイメージとはかなり異なっているのだと思いました。
ベジタリアン
ベジタリアンの人に初めて出会いました。日本では偏食としてあまり良い印象をもたれないベジタリアンですが、オーストラリアでは多国籍文化で多くの文化が認められています。ベジタリアンの人も堂々と「私はベジタリアンです。」と言っていました。さらに、知り合ったその人はビーガンでもあり、卵すらも食べない人でした。栄養士として“動物性のたんぱく質もしっかり取りましょう” と勉強してきた僕にとって衝撃的な出会いでした。
また彼の仕事はローフードのシェフでした。ローフードとは生食又は低温調理により野菜のビタミンや酵素を熱で失わないように調理された料理のことです。オーストラリアのベジタリアンや健康志向の人たちには有名な食文化です。
そのため、彼の健康への持論は本当に興味深かったです。彼はもともとお肉も食べていたそうですが、食について勉強していくうちにベジタリアンになったそうです。
彼の持論ではPFC比(たんぱく質:脂質:炭水化物のエネルギー比)は1:1:8で十分だと言っていました。また、完全なベジタリアンの食事を3週間続けると体から悪いものがすべてでていき体が軽くなるのだそうです。「昔は肉を食べていたのだからたまに食べたくならないのか?」と尋ねると、この軽い体の感覚を知ってしまうと全く食べたいと思わないと言っていました。
写真は彼が作ってくれたドラゴンフルーツとアロエを使ったSUSHIです。
日本食を見直す
海外に長く滞在していると、やはり日本食が恋しくなりました。唐揚げやうどん、かつ丼などは日本食レストランに行けば食べられたのですが、ごぼうやれんこんなどの根菜類、しめじやしいたけなどのキノコ類、貝や昆布、焼魚などの魚介類などはあまり売られておらず、なかなか食べられなかったのでとても恋しかったです。外食をするとなればマクドナルドなどのバーガー類が多く、ジャンクフードを食べる機会が多かったです。野菜をメインに使った料理というものはほとんど食べることができませんでした。
そんな生活をおくっているときに日本食の良さをいろいろと見直すことができました。日本食は野菜を簡単に摂れるものが多いと思います。きんぴらごぼうや漬物など野菜だけでごはん(主食)を食べることができたり、煮物や鍋など野菜をメインに食べられる料理がたくさんあります。また、豆腐や納豆、みそから簡単に植物性のタンパク質をとることができます。そのため動物性の食品が少なくても満足感を得られるのではないかと思いました。味付けも“うま味”というものをうまく使っているので、ジャンクフードのような濃い味にしなくてもおいしく食べることができると思います。日本が長寿大国なのは日本食の影響も大きな要因ではないかと思いました。
今回のオーストラリアの滞在で日本食の良さを改めて感じることができ、実際に自分の嗜好も大きく変わりました。今まではジャンクフードもおいしく食べていたのですが、帰国後はほとんどジャンクフードを食べなくなり、外食をするにしても定食屋などに行くことが増えました。今回オーストラリアで現地の食生活を実際に体験することで改めて日本食の良さに気づくことができました。
和食がユネスコ世界無形文化遺産に登録され、海外からさらに日本食が注目されるようになります。この機会に日本人も自分たちの食文化の素晴らしさを見直して、欧米化した食事が少しでも日本食になるといいなと思っています。
- コメント
- 世界に目を向けると、実に様々な食文化があるものですね。それぞれの健康への影響については、今後さらに検証していく必要があるでしょう。(日田)