大学生の食育レポート

[アドバイザー]
東京農業大学 応用生物科学部
栄養科学科 保健栄養学研究室
日田 安寿美

Vol.31「休日栄養士のススメ」

~卒業生からの食育活動報告~

2010年東京農業大学 管理栄養士専攻卒業生 満腹法人:芸術栄養学 主催 宮澤かずみ

 もう四年も前にここに栄養学への"もどかしい"思いを書かせてもらいました。 それは大学で学んだ栄養学を効果測定することの難しさにフォーカスした内容でした。

 その後私は大学を卒業し、効果測定ができる力を身に付けたいという思いからマーケティングリサーチの会社に就職しました。今ではメニュー調査を通して日本の食実態を鳥の目で把握することに取り組んでいます。 またその傍らで、「蟻の目で一人一人の食と向かい合いたい」という思いから大学時代の栄養士の友人らと『満腹法人:芸術栄養学』という名前の"休日栄養士ユニット"を立ち上げ、手探りで活動をしています。 今回は大学時代の恩師の一人、日田先生から機会を頂き休日栄養士の取り組みの紹介をさせていただき"栄養士のこんなやり方もある"という一例をご紹介させていただきます。(なんと長編3回に渡ります!)

 第1回めは子供たちとそのお母さんを対象にした食育イベントの活動報告を、 第2回めは大人を対象に料理教室をはじめとした食育の活動報告、 最後に、なぜ私はこのようなことをしているのか、そのきっかけや根底にある思いを書いてみたいと思っています。

 私自身、手探りで奮闘している途中なので、誰かにHow Toを伝えられるような明確な答えは見つかっていないけれど、何か悩みの中にいる人に、少しでも励ましやヒントになることがお伝えできればいいなと思って、筆を取らせて(キーボードを打たせて)頂きます。

ピザをつくろう! <ピザをつくろう!>

==子供たちとの食育「行事食の食育ワークショップ」のご紹介==

 2年ほど前、不思議なご縁でコミュニティーキッチンの運営と企画に携わる女性に出会いました。彼女の運営スペースで私たちは数か月に一度、「季節感のある食事を子供たちと作る食育ワークショップ」を企画させてもらいました。

▼具体的なイベントの内容は以下の通りです。

12月 持ち寄りのお菓子で飾り付け サンタさんのお菓子の家作り
3月 野菜の型抜きカラフルカップ寿司とお雛様桜餅作り
5月 手まりおむすびとこいのぼりの柏餅作り
6月 雨の日の室内手遊び 型抜きクッキーと具だくさんパフェ作り
7月 パパと一緒にバーベキューの準備 漬け焼き鳥バーガー作り
8月 自由研究のお手伝い 出汁(だし)とりのお味噌汁とおにぎり作り
9月 お月見バーガーとお月見団子作り

おいしい自由研究 <おいしい自由研究>

▼特に印象深かった「8月 自由研究のお手伝い 出汁(だし)とりのお味噌汁とおにぎり作り」についてその内容を詳しくご説明します。

 まず企画の前にお母さんたちに悩み事などをヒアリングしました。すると「夏休みの宿題や自由研究のサポートを早く終わらせたい。サポートするにしても何をしたらいいか困っている・・」という声を聞きました。そこで自由研究のお手伝いも兼ねた食育ワークショップを企画しよう、ということになりました。当日は、コミュニティーキッチンの近くに住む方を中心に5~12歳のお子さんとそのお母さんが10組ほど参加してくださる企画となりました。
 当日のコンテンツやその感想、ワークショップでこだわった点は次のとおりです。

■お味噌汁編
1鰹節の作り方の絵本の読み聞かせ
 →(実はカビによる発酵食品ということにお母さん方もびっくり)
2血合い抜きのかつお節やサバ節が混じったかつお出汁のテイスティング
 →(普段味わいわけないような微細な味の差に敏感になってもらいました)
3昆布とかつお節での出汁取りの実演
 →(基本を知って家でもやってみようね)
4味噌汁の具材になる豆腐やわかめを包丁でカット
 →(気を付けて使えばけがはしないよ。)

お出汁を比べてみよう <お出汁を比べてみよう>

■おにぎり編

 参加者の皆さんに好きな具材を持ち寄っていただき、お子さんには自分の分とお母さんの分を握ってもらいました。
皆で分け合うことや、自分が1度に食べられる量を知ってもらうこと、お母さんの好きなものを聞いて握ることを通して、贈り物をするように誰かに作ることの楽しさを知ってもらいたいという思いを込めました。
 三角おにぎりに挑戦する子や、3つの具材を詰め込んだ食いしん坊おにぎりを作った子もいました。

おにぎりを大好きなお母さんへ! <おにぎりを大好きなお母さんへ!>

こだわった点その1:二つのお約束

「一人一つは質問をしよう!」というお約束をしました。これはお子さんそれぞれから出てくる自発的な学びの芽を出してほしいと思ったからです。
 中には発酵食品に興味がある小学校5年生年の男の子がいて「かつお節に着くカビの名前は何ですか?」というようなすぐには答えられない質問も飛び出しました。(彼の将来の夢は農大の醸造学の博士になることらしいです)
 また写真や絵、メモの書き込みができるレポート用紙を準備したところ、途中でメモを書いたり、お母さんへの質問をかいたり、友達と相談しあったりと熱心に取り組んでくれました。

 また、自由研究を完成させるためにも「家に帰ったらもう1度ご飯作りに挑戦してみよう」というお約束もしました。
 これは「普段は一人残り物でいいけれど、夏休みの間は毎日子どものご飯も作るから大変」というお母さんの声を反映したもので、いつもご飯を作ってくれているお母さんへの感謝もうまれたらいいな、との思いを込めました。

こだわった点その2:料理以外のこともできるようにしておくこと

 もちろん料理を楽しんでほしいのですが、中には料理が苦手な子もいます。そんな子にも何か好きなことをしてもらい、楽しかった記憶を残してあげたいと思い、お絵かき用の紙や色鉛筆、折り紙も用意しておきました。
 これは私たちの食育ワークショップで料理に対する苦手意識を植え付けたくなかったことと、食のある空間がいつでも楽しい場であるように無理強いはしたくなかったためです。
また、お料理はいつか興味が向いた時にしたらいいと思っています。

みんなでつくると楽しいね <みんなでつくると楽しいね>

 どのイベントにも共通することですが私たちの食育ワークショップのコンセプトは
「食を育むだけでなく、食で育む体験をしてもらいたい」というものです。
 食で育むとは、食をきっかけに何かの学びを作るということです。たとえば「お豆腐を12等分に切ってみましょう」というと、まな板の上で"算数"の分数を考えることになります。お湯がぐつぐついう時の温度は100℃だね、というのは"理科"ですし、かつお節が築地から来たことを伝えると流通の仕組みを考えるので"社会科"にもなります。季節感のあるメニューなら日本の四季折々の景色も感じる"美術"も感じられますし、"歴史"を紐解くこともできます。また、はじめて出会った子と同じ料理を作る中で、道具の順番を待つことや、「次、私に貸して」と声をかけることで友達を作る力も育むこともできると思います。
 もちろん獲得してほしいことはあらかじめ考えておきますが、「こうでなくてはならない」という堅苦しいものではなくて、子供たちとの会話の中からリラックスしながら楽しく学びの種が芽吹くといいなと思っています。
こんな風に、食の場面で食を学ぶだけでなく、食をきっかけに別のものへの学びが広がることも私の考える理想の食育です。

 また、参加されたお父さんたちからは「一人っ子でも自分よりも小さい子といると、お兄ちゃんのような振る舞いができていて驚いた」「器用に手先を使えていて、子供の成長に驚いた」という感想を頂きました。親御さんにとっても食を通してお子さんの成長を知るきっかけになれたのではないかなと感じた瞬間です。

お豆腐を切ってみよう <お豆腐を切ってみよう>

==そのほかの食育イベント==

・築地場外市場振興会の方との「築地場外市場でのバランス丼ワークショップ」
築地場外市場の秋祭りにて栄養のバランスよく丼を作ってもらうワークショップをしました。
その様子は以下のURLをご覧ください。

▼(満腹法人)芸術栄養学
http://geijtueiyo.exblog.jp/16821658/

▼築地場外市場
http://www.tsukiji.or.jp/modules/info/details.php?bid=254

・特定非営利活動法人イクメンクラブの方々との「パパッと作ろう朝ごはん」、「パパッと作ろう納涼そうめん」
育児に積極的にかかわるお父さんたちとの食育企画で、帰ってからママにお料理をふるまえるような仕掛けをしています。
その様子は以下のURLをご覧ください。

▼特定非営利活動法人イクメンクラブ
http://www.ikumenclub.com/シリース第2弾 パパっと納涼そうめんを作ろう!/

このように地域活性や親子の絆を深めるために食育が機能することもとても面白みのあることです。
食育をキーワードに他の分野と手をつないでいくことで、これまで以上に栄養士としての可能性を広げられるのではないでしょうか。

出~来た♪ カップ寿司のおひな様♪ 出~来た♪ カップ寿司のおひな様♪
  <出~来た♪ カップ寿司のおひな様♪>

次回は大人向け食育イベントについての活動をご報告したいと思います。お楽しみに!