vol.19
新型コロナのもとでの学校給食③
学校給食に関する政府(文科省等)の対応
学校臨時休業対策費補助金
学校の一斉休校が始まってからほぼ1週間後に、学校給食に関する最初の文科省の通知「臨時休業に伴う学校給食休止への対応について(令和2年3月10日)」が出されます。これは、臨時休業期間中における学校給食休止に対応するために、政府が「学校臨時休業対策費補助金」を創設して、保護者及び学校給食調理業者への補助を行うというものです。「1.学校給食休止に伴う保護者の負担軽減
…臨時休業期間の学校給食(食材費)について、返還等を行い保護者の負担とならないようにお願いします。学校設置者が、保護者に学校給食費を返還するために要した費用等に対し、国が補助をおこないます。」「2.学校給食の安全・安心の確保
…学校給食調理業者(パン、米飯、めん等の最終加工・納品業者を含む。)の衛生管理の徹底・改善を図るための職員研修や設備等の購入を地方公共団体が支援する事業に対し補助を行います。」この補助事業を行うために「学校臨時休業対策費補助金交付要綱」(令和2年3月10日 文科大臣裁定)が策定されました。補助金の交付に関しては、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(昭和30年法律第179号、適正化法)及び「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令」(昭和30年政令第255号、適正化法施行令)と、この要綱の定めによると規定されています。そして、補助事業者等(適正化法第2条第3項)を全国学校給食会連合会(連合会)として、①学校給食費返還等事業、②衛生管理改善事業を対象に、間接補助事業者等(適正化法第2条第6項)を①学校の設置者、②地方公共団体と定義しています。交付の申請手続きは各都道府県の学校給食会又は学校給食・食育支援センター(給食会等)が行い、大臣が30日以内に交付の決定をして、連合会は補助金を速やかに間接補助事業者に交付なければならないとされています。こうした(通則)(交付の目的)(定義)(交付の対象)(申請手続)(交付の決定)に関する規定以外に、(申請の取下げ)(補助事業の遂行)(計画変更)(補助事業の中止又は廃止)(補助事業の遅延の届出)(状況報告及び調査)(実績報告)(補助金の額の確定等)(交付決定の取消し等)(補助金の支払)(財産の管理等)(財産処分の制限)(補助金の経理)(補助金調書)(間接補助金等交付の際付すべき条件)(その他)等の規定がありますが、ここでは省略します。
この事業によって補助される金額は、①学校給食費返還等事業が「公立及び私立学校の場合は補助対象経費の4分の3の額」「国立学校の場合は10/10」、②衛生管理改善事業が「補助対象経費の3分の2の額」となっています。これに関連して、文科省は「学校臨時休業対策費補助金に関するQ&A」(令和2年4月3日)を公表しています。さらに総務省も「令和元年度一般会計の予備費の使用等に伴う地方負担への対応について」(令和2年3月10日)を発表して、「学校臨時休業対策補助事業については、地方負担額の80%を特別交付税により措置する」とし、「新型コロナウイルス感染症対策に係る学校設置者の負担となる学校給食費に相当する費用等への支援に必要な経費」182億4245万6千円を計上しています。
学校給食の調理業務等受託者及び学校給食関係事業者への対応
中小企業庁長官から「新型コロナウイルス感染症の影響を受けいている中小企業・小規模事業者に対する官公需における配慮(要請)」(令和2年3月3日)が各府省庁に出されたことを受けて、文科省と農水省も「臨時休業に伴う学校給食休止により影響を受けている学校給食関係事業者に対する配慮について(依頼)」(令和2年3月11日)を通知しています。その内容は、「1.柔軟な納期・工期の設定・変更及び迅速な支払」「2.適切な予定価格の見直し」を求めるものです。ところが、調理業務等受託者から契約内容の変更について「協議がなされない」との意見があったことから、文科省・農水省・中小企業庁は「臨時休業に伴う学校給食休止により影響を受けている学校給食の調理業務等受託者に対する配慮について(依頼)」(令和2年3月18日)を出しました。特に、学校の設置者が負担することになっている「学校給食の実施に必要な施設及び設備に要する経費並びに学校給食の運営に要する経費のうち政令で定めるもの」に関する業務を委託している場合には、「学校の設置者は、政府の要請を踏まえた学校の臨時休業に伴い学校給食が休止となっている現状を踏まえ、その実情に応じて、受託事業者と十分協議されたいこと。その際、学校給食の安定的な実施を図る観点にも配慮されたい」と述べています。
令和2年度に入っても(4月以降も)新型コロナウイルス感染症の地域における感染状況に応じて、学校の臨時休業等の対応が取られ、地域によっては引き続き学校給食が休止され、学校給食事業者にも影響が生じていました。こうした状況を受けて、文科省と農水省は「4月以降の臨時休業等に伴う学校給食休止により影響を受ける学校給食関係事業者に対する配慮について(依頼)」(令和2年4月17日)を通知して、これまでと同様に関係事業者等と十分協議を行うことを求め、それを担保する参考資料を改めて提示しました。
学校給食食材納入事業者への支援
4月30日に令和2年度補正予算が成立して「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」が創設されたことを受けて、農水省は学校給食食材納入事業者の団体に向けて「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金による学校給食関係事業者への対応について(周知依頼)」(令和2年5月1日)を通知しました。それは、臨時交付金が学校給食用食材納入事業者への支援等に幅広く活用可能であり、「食材の納入の発注取り消し等で影響を受ける事業者・生産者に対しても適切に対応」することを求めるものでした。他方で、文科省・厚労省も「新型コロナウイルス感染症対策に伴い発生する未利用食品の利用促進等について」(令和2年3月13日)を通知して、学校給食で使用する予定であった食品 が未利用となり、廃棄されることのないように、未利用食品の有効活用の一つとしてフードバンクへの寄附を求めています。具体的には、臨時休業期間中の学校給食費の保護者への返還要請とそのために学校設置者が要した費用等への支援(学校給食費返還等事業)等です。学校給食費返還等事業については、学校設置者がキャンセルせずに事業者から購入した食材に係る経費(フードバンクへ寄附した場合も含む)や業者への違約金等が含まれます。また、農林水産省は、新型コロナウイルス感染症対策に伴う小学校、中学校等の一斉臨時休業により、食品関連事業者等から発生する学校給食で活用する予定であった未利用食品をフードバンクへ寄附する又は福祉施設等に直接寄附する際に必要となる輸配送費を支援する等の事業を実施しました。
登校できない児童生徒への支援
また、地域の感染状況によって臨時休業が一定期間続いたり、学校再開後においても一部の児童生徒がやむを得ず学校に登校できない場合もあることを踏まえて、新型コロナウイルス感染症対策のための臨時休業等に伴い学校に登校できない児童生徒に係る食に関する指導等について、文科省は「臨時休業等に伴い学校に登校できない児童生徒の食に関する指導等について」(令和2年5月13日)で以下のようにまとめています。「 1.栄養教諭を核とした食に関する指導について
食に関する指導においては、児童生徒が食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付けることにより、生涯にわたって健やかな心身と豊かな人間性を育んでいくための基礎が培われるよう、栄養のバランスや規則正しい食生活などの指導が重要とされています。ついては、例えば下記のような方法により、また適宜ICTを活用するなどの工夫により、児童生徒に対する指導を行うことが考えられます。
- 適切な栄養摂取に関する知識や、児童生徒だけでも整えられる食事の作り方などに係る情報提供を行い、食事への興味・関心を深めるとともに、主体的な実践を促す。
- 養護教諭等と連携して、健康記録や食事記録をとるよう促し、併せて必要な指導を行うことなどにより、望ましい生活習慣を形成し、食に関する自己管理能力が身に付くようにする。
- 食事の準備や調理、後片付けを行う際の安全や衛生についても必要な情報提供を行い、児童生徒が自ら考え、徹底できるようにする。
- 家庭での食事が中心となることから、児童生徒に対する指導の充実と合わせて、家庭への働きかけや啓発活動等を行い、望ましい食習慣の形成が図られるようにする。
- 食物アレルギーを有する児童生徒や肥満・やせ傾向にある児童生徒など個別的な相談指導が必要な児童生徒に対しても、健康状態の確認や家庭の食事に関する助言などの必要な指導を行い、児童生徒の健康状態が改善するようにする。
2.食事支援について
学校給食は、学校教育活動の一環として行われ、食に関する指導を効果的に進めるための「生きた教材」として大きな教育的意義を持っています。他方で、栄養バランスの取れた食事を提供することによって、児童生徒の健康の保持増進を直接支える意義も持ち続けています。臨時休業期間等において、この機会に家庭等において児童生徒とともに食を考え実践することも重要と考えられる一方で、必ずしもそのような状況に家庭や児童生徒が置かれていない場合もあることから、関係部局等と連携を図り、例えば下記のような工夫により、児童生徒に対する食事の支援を行うことが考えられます。いずれの場合においても、衛生管理には十分留意するとともに、栄養をはじめ食に関する指導と合わせて行うことで、その実施効果を高めることが重要です。
- 登校日や子供の居場所確保等の取組に当たり、学校給食の調理場や調理員を活用して学校給食に近い食事を提供したり、簡易な食事を提供したりする。
- 献立作成などに栄養教諭等が関わりながら、民間企業や子ども食堂の運営者等との連携・協力により、栄養バランスを考慮した食事を提供する。
このように新型コロナウイルス感染症の第1波に対応した学校一斉休校にともなう学校給食の休止に対して、一定の政策対応がなされたことは事実です。依然として第5波の感染拡大に直面しているいま(2021年7月)、ふたたび全国一斉に学校の臨時休業が行われて学校給食が休止するとは考えられません。しかし、感染症のパンデミックに限らず、激烈化する気象現象(台風・洪水等)や地震・噴火等の自然災害によって広範囲の学校や公共施設・企業の集団給食が停止するリスクは高まっており、子どもたちや市民に安定的に給食を提供できる条件を模索する努力が求められています。今回の新型コロナウイルス感染症にともなう学校一斉休校と学校給食の休止にともなう対応から、多くを学ことができると思われます。
*資料 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をめぐる文科省の主な動き(通知等)
朝岡幸彦(あさおか ゆきひこ / 白梅学園大学特任教授/元東京農工大学教授)