私の考える“もどかしい”食育

東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科 管理栄養士専攻4年
宮澤 かずみ


アドバイザー:東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科 保健栄養学研究室 日田 安寿美


ひとつの学問に身を浸して早4年。私の学生生活が間もなく終わろうとしています。「私が学んできたことは世の中でどう役立つのだろうか?」そんなことを考える度に私の心にはいつも“もどかしさ”が顔を覗かせます。

私は、大学で栄養学を学んでいます。医学にも生物学にもなりきれず家政学とも一味違うこの若い学問の目的は、食を通じて人々の生活の質、いわゆるQOL(Quality of Life)を向上させる事だと思います。研究や技術の発展だけが目的ではなく、人々に食の大切さを伝え、人々の食生活に変化を起こせてこそ初めて意味があると思っています。

しかし私は、世の中に栄養学が正しく認識されていないように感じます。ダイエットという言葉が飛び交い0kcalの食品が持てはやされる一方、深夜の牛丼屋で人々は燃料補給のように黙々と食べ物を口に運んでいます。このように多様化する生活のスタイルや価値観の中で一様にQOLの向上を目指すことは容易なことではありません。何が一人ひとりにとっての幸せかは、追求しようがありません。しかし私は、過去の経験から「食べること」で人はもっと幸せになれるはずだと確信しています。この理想と現実の狭間に私の感じる“もどかしさ”があります。そんな“もどかしさ”を少しでも解消すべく私は食の魅力を伝える活動を企画しました。


題して『五感をくすぐる食展』


例年、10万人を超える来場者が訪れる東京農業大学の学園祭で、栄養科学科としての食育イベントです。以下にそのコンセプトや詳細を記します。


タイトル



コンセプト:あなたの食に対する意識に少しでも変化を起こせたらな。


便利さとスピードが追い求められる今日、人々の食はただお腹を満たすことにベクトルが向いてしまっているように感じます。 けれどいつもよりちょっと時間をかけて、目をつぶって食べてみるとどうでしょう? 舌や頬で感じる食べ物の感触、鼻から抜ける香り、自分の咀嚼音に気がつくのではないかしら。


そうして五感で食を感じること、楽しむこと。


この企画があなたの普段無意識になってしまった『食べる』という意識を呼び覚ますきっかけになれたら。


お品書き



展示内容:展示物全体をコース料理に見立てて、五感をそれぞれ刺激します。



イベントの詳細は以上です。


地域住民の方々や入学を考える高校生を中心に、総勢数5000人以上の方々にお越しいただきました。スタンプを楽しむ子供たちや、今まで気づかなかった感覚に「はっ」とする大人たちで会場は溢れかえりました。私の思う食育は、感覚を敏感にすることで食の楽しみ方を提示することです。今回の展示ではそのきっかけを作れたのではないかと感じています。

この取り組みの中で『空腹は、世界で最上の調味料である』という言葉と出会いました。まさにおいしいさや食の楽しみは一人ひとりの中にこそあるということを示しているようです。いくら「食育」という名の下に栄養士が食の知識や健康的な食べ方を伝達しても食生活を変えられるのは生活者一人ひとりです。どんな取り組みもきっかけでしかありません。だからこそ私は展示の最後にこう投げかけました。


『あなたの食生活はあなたのものです。どうか幸せな食を…』


うずらの卵で目玉焼き


結局、イベントを終えても私の心の中の“もどかしさ”は消えることがありませんでした。それはどれだけの人に食の魅力が伝わり、食生活に変化を起こせたのか効果を的確に測定する術もなく、食育の正解が何なのかもわからなかったからです。しかしもどかしいからこそ、「食」でもっと人を幸せにする方法を追及し続けることが出来ます。私に出来る食育。その答えが見当たらないからこそ私は栄養士になるのだと思います。

それにしても、さっきから難しいことを考えていたらお腹が減ってきてしまいました。


さて、今からどこで誰となにを食べよう?


あなたは今日、どんな楽しい食生活を作りますか?

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