「塩」

最近はひそかに減塩がブームのようで、体重計などを作っている某メーカーの社員食堂のメニューをのせたレシピ本も大変ヒットしたそうですね。某コンビニエンスストアでは、そのレシピを使った弁当を商品化した、なんて話も耳にします。

普段当たり前のようにおこなってきた栄養士業務が少し注目され始めているそんな気がします。

ただしブームになると、偏った考えをしてしまう傾向が多いので、ここで「塩」について少し考えてみたいと思います。

「塩」は、調味料としてはもちろんですが、人間は古くから食品の保存性を高めるための素材としても使用してきました。

身体にとって「塩」=悪者のようなイメージが強いわけですが、決してそんなことは無いようです。我々が言うところの「塩」は一般に塩化ナトリウムのことを指しますが、体内においては神経伝達ににも関与したり、酸性とアルカリ性のバランスを整えたり、また胃液の成分である塩酸も塩から作られたりと、生命を維持する上で、「塩」は欠かせない物質のひとつであります。


じゃあ悪影響って?

塩分を取りすぎると高血圧になる!こんなイメージが強いのは確かですね。確かに塩分の取りすぎと血圧が無関係ということでは無さそうですが、両者の関係においては、食塩感受性高血圧と非感受性高血圧とに分類できるそうで、前者は比較的高齢者に多く、後者は若年者に多いと言われています。高齢になると味覚の衰えから、濃い味付けを好んでしまう傾向が強いため、より注意が必要になるわけですし、余分なナトリウムの排泄に関与 する腎臓も、処理量が多ければ当然疲れてしまいますよね。

また、非感受性は塩分とは関係なく、遺伝の要素が強い高血圧になります。関係ないといっても、余分なナトリウムを処理し続ければ、腎臓に負担がかかってしまうのはいうまでもありません。

しかし、必要な栄養素であることには違いないので、正しく付き合っていくことが重要ですね。


じゃあどれくらい必要なのか・・・

地球上には塩をまったく摂らないで、自然に1日1g程度の塩の摂取量で原始的な生活をしている民族がいるようです。つまりこの量が究極的な必要量と言えますが、それはそれで問題点もあるようです。

この民族は高血圧症がなく、加齢による血圧上昇もない。しかし、寿命は短く大量の電解質を失う怪我や下痢、発熱による発汗には抵抗力がないなどの問題もあるようです。したがって、1.5g/日を最低必要量とするようです。

現代社会において食事から1日1.5gというのは不可能といえると思います。自然の食品中にはもちろん、工業化が進んだ今日では、加工食品などにも含まれてしまっている為、調味料で注意しても、計算以上体内に取り込まれてしまっているわけです。

現在の日本人の食事摂取基準による食塩摂取目標量としては、男性9g/日未満、女性7.5g/日未満としていますが、実際にこの数値を達成するのはとても難しいと思います。

そこで今回は、調理法や味付けで、塩分を少なくする方法を紹介したいと思います。

一般的に失敗しにくい味付けの塩分濃度の目安は・・・


汁物の場合 液体に対して0.8〜0.9%
味付け飯 出来上がり総重量に対して0.7%
主菜・副菜(おかずになるようなもの) 重量に対して1〜1.5%

上記の数値を計算しながら調味料を計算すると、薄すぎたり濃すぎたりすることが無いと思います。しかし、これは通常の味付けを行なう際必要になる量ですので、減塩にはつながりません。

そこで・・

人には「閾値」といって、味を感じ始める濃度があります。閾値は味の種類によって異なり、苦味、酸味、旨味、塩味、甘味の順で感じやすいといわれています。

これらの基本5味を上手に組み合わせることで、本来の刺激以上に味を強く感じられたり、舌から伝わる味だけではなく、香りや風味といった方法で、感じ方を強くすることができます。例えば、汁物に必要な塩分が150ccの水分に対して0.85%とした場合、約1.3gの塩が必要になるわけですが、動物性の旨味(イノシン酸など)が存在することにより、対比効果が起き、0.7%1.1gの塩分でも、十分塩味を感じることができます。

たかが0.2gと思う方も多いと思いますが、多くの食材を使って献立を立てていくと、あっというまに目標値をオーバーしてしまいます。

ただし気をつけなくてはいけないのが、市販の粉末のダシは塩分を含んでいますので、その分の食塩相当量は考慮しなくてはいけません。

程よい焦げやこしょうなどのような香辛料を使い、風味をつけたり刺激を与えたり、また、酢豚や酸辣湯のように、程よい酸味を利かせることもとても効果的です。

強いと感じる味の刺激も、繰り返していくうちに感覚が慣れてしまい、閾値もにぶり、濃い味付けを求めるようになってしまうわけですね。


ということで今回は、今が旬の金目鯛を使った料理を紹介したいと思います。

装飾画像

〜ポワレ〜(一人分)

材料の画像

金目鯛切り身

100g

塩・黒こしょう

0.2g・0.05g

オリーブオイル

4g

〜きのこソテー〜(一人分)

オリーブオイル

4g

にんにく

0.5g

トマト

30g

マッシュルーム

30g

しめじ

40g

白ワイン

15g

塩・黒こしょう

0.3g・0.05g

〜ビネグレットソース〜(一人分)

バター

6g

はちみつ

5g

バルサミコス

20g

作り方〜ポワレ〜

金目鯛をソテーする画像①・・・金目鯛は余分な水分をふき取り、塩・黒こしょうをふっておく。
②・・・フライパンにオリーブオイルを入れ熱し、金目鯛の皮目から焼いていく。
③・・・いい焼き色がついたら裏返し、ふたをして弱火にし、中まで火を通す。

〜きのこソテー〜

きのこのソテー画像①・・・トマトは種を取り5mm角にカット、にんにくはみじん切りにし、マッシュルームはくし型6等分、しめじは根元を切り、ほぐしておきます。
②・・・鍋にオリーブオイル、にんにくを入れ加熱します。
③・・・にんにくの香りが出てきたら、トマト、しめじ、マッシュルームの順に入れ、白ワインを加え、アルコールが飛んだところで塩・黒こしょうを加え味を調えます。

〜ビネグレットソース〜

①・・・鍋にバター、はちみつ、バルサミコスを入れ、軽く煮詰めれば出来上がり。

〜盛りつけ〜

盛り付け画像皿にソテーしたきのこを盛りつけ、上に金目鯛を乗せます。最後にソースを丸く囲むようにたらせば出来上がりです。今回はありませんでしたが、芽ねぎやセルフィーユといった緑系のハーブや野菜を飾ってもきれいに仕上がります。



使用した食塩は0.5gになり、金目鯛自体には0.1gの食塩相当量があるため、結果0,6gになります。通常100g程度の肉や魚に使用する量としては、1g〜1.2gは使いたいところですので、0.5〜0.7gの減塩に成功した形になります。

エネルギー

331Kcal

タンパク質

20.1g

脂質

22.3g

今回は金目鯛で調理しましたが、白身の魚なら合うと思います。

また、チキンのソテーにも合うソースだと思いますので、是非試してみてください。すっぱいのが苦手な方には不向きかもしれませんね。

まとめですが、塩分は意識していなくても色々な食品からも摂れるわけですので、やはり濃い味付けに慣れるのは避けたほうが良いと思います。

今は良くても、年を重ねるごとにリスクが増えるわけですから、日常食べるものはできるだけ濃くしないで、素材の味を楽しむような食生活を送ることをお薦めします。しかしあまり無理をしても面白くないですから、メリハリの心がけを持って、食事を楽しんでください。



武蔵野栄養専門学校 管理栄養士 宮屋敷忠信



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